凸凹な空気

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「楽園の泉」

 「軌道エレベーター」というのをご存じ?知っている人はサイエンス・ファン、「楽園の泉」を知っている人はSFファンといって間違いないでしょう。
そう遠くない将来、現代よりもはるかに大規模な宇宙開発が行われるだろうという予測はごく自然なことと思われるわけですが・・・

宇宙開発においてハードルの一つになるのが、地上から宇宙空間への輸送システム。現在の主流である使い捨てロケット、あるいはスペースシャトルのような輸送機関ではコストがかかりすぎるだけでなく、環境負荷も相当なもの。スペースシャトルの補助ロケットブースター(個体燃料ロケット)は、その動作(燃焼)時にかなりの酸性ガスを噴出、そのガスの影響で発射場周辺は強い酸性雨が降り、近くの湖(池?沼?)は酸性が強くなりすぎて生き物が住めなくなってしまったとか。個体燃料ロケットの酸性ガス問題はスペースシャトルだけでなく、他の各国のロケットについても程度の差こそあれ、同様でしょう。
それら諸問題を解決する、画期的な宇宙輸送機関として期待されているのが「軌道エレベーター」なのです。「軌道エレベーター」という言葉そのものを聞いたことがない人にとっては、それを聞いてもなんのことだかピンとこないかもしれません。何かというと、その名前のとおり、エレベーターです。地上から宇宙空間までずうーーーーーっと高く延ばしたエレベーターです。地上から延ばす、というよりも、静止衛星軌道上から降ろしてくるといったほうが正確かな。実際にこれを建造するとしたら、そういう工事手順になるからね。むろん、冗談を言ってるわけじゃなく、すごくマジメな話です。

「そんなの出来るわけないじゃない」

と、一笑に付すかもしれないけれど、これを実現する可能性が、実はあるんです。

これを建造しようとしたときの最大の問題となるのが、その材料。

何せ、静止軌道から地上までおよそ35,800km!

地球1周の90%にも及ぶ距離・・・そして、これには非常に大きな潮汐力(この場合、張力と言い換えてもいいかな)がかかるのです。現在において実用化されている最強の繊維でさえ、その張力(材料自身の重さで地球に引っ張られる)に耐えることは到底不可能。

けど、その難題を克服しうる可能性を持った素材が存在するんですよ、実は。

言ってることが矛盾しているようだけど、矛盾ではないです。
その素材、まだ建造物の構造材料として使えるレベルで製品化することは出来ておらず、現在はそのための技術開発の途中というわけです。もちろん、その実用化がなされれば、軌道エレベーター以外にも応用範囲は非常に広く、まさしく夢の素材、というところでしょうかね。

それは、最近あちこちで耳にする「カーボンナノチューブ」というもの。
これが、その構造体用素材として十分な強度を持っているというのです。

数年前のことですが、東京の「科学未来館」で、将来の惑星間有人宇宙飛行の展望についての講演があって、(冒頭のあいさつでは毛利衛館長も登場)その中で軌道エレベーターの有用性と実現にむけての課題の話が、SF的なものではなく、きわめてリアルな現実の話として紹介され・・・実はそれが、「楽園の泉」を読むきっかけになったのです。

ついでながら、その講演で、バブルの時に大手ゼネコンが描いた、軌道エレベーターのイメージ図も紹介されておりました。


前振りが長くなってしまって、

本題はコレだけ?

という、バランスの悪さではありますが(^^;・・・・・

「楽園の泉」は、その軌道エレベーターを題材にした、アーサー・C・クラークSF小説で、30年ほど前に書かれている(らしい)ということもあり、軌道エレベーターの素材はカーボンナノチューブではないけれど(その素材が発見される前のことなので)、氏のSF小説らしく物語の「場」・「状況」の描写が非常にリアルで、まるで自分がその現場にいるかのような錯覚さえ感じるほど。挿絵があるわけでもないのに、頭の中にその光景がとても明瞭に広がり、寒気(背筋ゾクゾク)さえ感じてしまうんですね。物語の後半、軌道エレベーター建設現場(地上のはるか上空)の描写はまさに背筋ゾクゾク!

アーサー・C・クラークの・・・いや、これまで読んだSF小説の中で最も好きなものと言ってもいいかな。SFが嫌いでなければ、強くオススメできます。

天(宇宙)へ上がる1筋の道、誰もが安全に、安価で、宇宙に上がれるエレベーターの窓から見える青い地球・・・ぜひ、見てみたいもんです。