凸凹な空気

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ゴルナーグラート鉄道あれこれ

朝のツェルマットは、昼間のような人ごみがなく空いていて、その何より落ち着いた雰囲気が本当に気持ちがいい。日中の混雑ぶりがウソのような静けさのバーンホフ通り(←「駅前通り」という意味らしい)をゴルナーグラート鉄道の駅に向かい、列車に乗り込む。
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今回はゴルナーグラート鉄道の装備にちょっとだけ踏み込んだ話題を。

登山鉄道巡りを目的に訪れたスイス、そのスイスには登山鉄道(特に定義はないと思うけれど、急な山道(坂)を登り降りする特別な装備を備えた鉄道を登山鉄道としてみる)が非常に多い。日本にも登山鉄道は存在するけれど、スイスにおけるそれは日本の比ではない。そして、その車窓もまたすばらしい光景を見せてくれるから、観光客が世界中から集まってくる。ゴルナーグラート鉄道はスイス山岳リゾートとして第一級のツェルマットを起点とし、ゴルナー氷河を見下ろすゴルナーグラートまで、マッターホルンを眺めながら登っていく純粋な登山鉄道で、夏はトレッキング客、冬はスキー客が主な客層になると思われる。むろん、この鉄道自体が動くマッターホルン展望台だから、列車に乗って往復するだけの乗客も少なくはないと容易に想像できる。

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ツェルマットに向けてゴルナーグラート駅を出発する列車。駅をでるとすぐに下り急勾配がはじまる。

このゴルナーグラート鉄道の勾配は実に200パーミルにも及ぶ。
パーミルというのは千分率のことで、鉄道の勾配を表す際はこのパーミルが通常使われる。200パーミルは1000分の200、すなわち水平方向に1000m進むと200m登る(降りる)勾配のこと。日本で有名な箱根登山鉄道の勾配は80パーミルだから、その勾配がいかに急であるかがわかると思う。

イメージ 3ドイツ語でよくわからないけれど、最高運転速度を示していると思われる、列車の車内にあったプレート。200パーミルの表記が見られる。

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急勾配区間を走る列車。もちろん、架線の支柱は水平面に対して垂直に建っている。

その急勾配を上り下りするために必要となるのがラックレールというもの。
普通の、2本のレールの中間に設置したギザギザの「歯」のついたレール、それがラックレールで、そのラックレールに歯車を噛み合わせて列車を走らせることで、急勾配でも滑ることなく安全に上り下りできるというわけ。ラックレールにも、その形状の違う様々な種類があるけれど、ゴルナーグラート鉄道のラックレールは世界的に最も多く使われている、アプト式

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ゴルナーグラート鉄道は2枚のラックレールを使っている。ラックレールの歯それぞれの山と谷が互い違いに配置され、車両側の歯車とのかみ合わせをより確実なものにしている。


そして、もうひとつ、坂を安全に下りるための装備が車両の屋根上にある大型抵抗器。急勾配を登る際は力にモノをいわせてぐいぐいと登ればそれでいいのだけど、下る場合はそうはいかない。スピードをきちんとコントロールしてやらないと、オーバースピードで事故を起こしてしまう。そのスピードコントロールの要が、この抵抗器。抵抗器自体は登山鉄道でなくとも、一般的に速度コントロール目的に使われているけれど、登山鉄道のそれは特に大きい特別仕様。坂を下る際にモーターを発電機として使い、そこで発電された電力を屋根上の抵抗器で消費(熱に変える)させる、つまり坂を下る時に発生する列車の運動エネルギーを抵抗器で熱に変換して放出することでスピードを抑えた運転を可能にしているという具合。車輪(ラックレールの歯車)や車軸を直接押さえつけることによる、摩擦を利用したブレーキでは、勾配の急な登山鉄道の場合、車輪の磨耗だけでなく、摩擦熱による車輪等の過熱でフェード現象等の問題が発生してしまうのだ。

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車両の屋根上にずらっと並んだ抵抗器。日本の箱根登山鉄道も同様に屋根上に抵抗器を装備している。